運動時のホルモン分泌変化と生理作用

運動による血中ホルモン濃度の変化では、運動の強度や時間に応じてさまざまに変化し、それぞれのホルモン固有の働きをします。

下垂体ホルモンやアドレナリンなどは、最大酸素摂取量の50%~60%を超える強度の運動で急増するが、心房性ナトリウム利尿ペプチドなどは20%~30%程度の運動でも運動時間が長くなると血中濃度が高くなる場合もみられる。

ステロイドホルモンなどは、高強度の無酸素性運動(後)でとくに分泌する。

このように種々のホルモンは運動の種類によって影響を受けやすい。

運動時のホルモンの作用は?

糖と脂肪の動員は運動強度や時間に依存して変化し、その変化には様々なホルモンが関与している。

低強度の運動では、交感神経活動によるノルアドレナリンと副腎髄質由来のアドレナリンがおよそ安静時の2倍程度に上昇する。

ノルアドレナリンは、主に脂肪組織の脂肪分解反応を高め、アドレナリンは肝臓のグリコーゲン分解と糖新生を促す。

しかし、アドレナリンによる糖の動員はあまり大きくなく、低強度運動では脂肪が主にエネルギー源として利用される。

中強度の運動(50%~75%)になるとノルアドレナリンやアドレナリンの血中濃度は、安静時の4倍~6倍に上昇し、筋肉のグリコーゲン分解反応と脂肪分解反応が強まる。

乳酸性代謝閾値(LT)を超える強度になるとGHやコルチゾルが糖新生を促して糖を供給する。

80%を超えるような高強度運動では、カテコールアミンの血中濃度は安静時の17~20倍にまで急増する。

その際、高強度運動時の糖生成量と血中カテコールアミン濃度の上昇には良好な相関関係がみられる。

また、GHやコルチゾルおよびグルカゴンの血中濃度も著しく高くなり、これらのホルモンも血糖を動員する。

しかし、このような高強度運動時には、骨格筋はその糖を十分に利用する事ができないため、結果として血糖値は急増する。

運動時のインスリン血中濃度は安静時の50%近くにまで低下する。

これは、Cペプチドも減少する事から、膵臓β細胞からの分泌が低下する事によって起こると考えられる。

この低下は、運動時に増加するカテコールアミンがβ細胞のα2アドレナリン受容体を刺激するために起こるとされている。

運動中にインスリン分泌が低下するため、肝臓や脂肪組織および骨格筋のインスリン刺激による糖取り込み量は減少する。

しかし、骨格筋細胞自身が収縮する事でAMPKを活性化し、このAMPKがGLUT4の細胞質から細胞膜への移行を促す事で、筋活動での糖取り込みは盛んになる。

さらに、インスリン分泌が低下する事でインスリンによる脂肪分解抑制作用も減弱する。

その結果、運動筋の糖取り込みが優先的に促進し、脂肪酸の供給も高まる。

このように、運動時にみられるインスリン分泌の低下は、運動時のエネルギー代謝にとって重要な意義をもっている。

運動によるカテコールアミンの分泌の応答は、運動トレーニングによっていわゆる馴れが生じると低下する。

すなわち、同じ絶対的強度の運動で鍛錬者と非鍛錬者を比較すると、鍛錬者の方がカテコールアミンの分泌量は小さい。

しかし、同じ相対的強度で比較すると、運動トレーニングの影響は見られなくなるようである。

また、運動中のインスリン低下量鍛錬者で非鍛錬者に比べて小さくなり、グルコースによるインスリン分泌の増加量もトレーニングによって低下する。

さらに、運動によるグルカゴン分泌量も運動トレーニングによって減弱するようであるが、運動トレーニングは肝臓のグルカゴン感受性を向上させるようである。

その仕組みとして、運動トレーニングによるグルカゴン受容体の増加や、長時間運動後には細胞内にあるグルカゴン受容体が細胞膜上へと移行する事が報告されており、こういった受容体の変化が関与しているかもしれない。